« 懐かしい友と再会する | トップページ | 前田芳之君を偲ぶ »

2017年8月10日 (木)

古希コンビで挑んだ最後の剣岳(2017夏)

2017年5月7日、悪夢のようでした。攣縮性狭心症に倒れ緊急入退院してから早いもので3ヶ月が過ぎた。

古希を過ぎ、齢を重ね71歳となった。考えてみると若い頃からの不摂生、不健康を絵に描いたような生活を送ってきたのですから心臓が悲鳴を上げても不思議ではなく当然の結果だったんでしょう。

P8070059
病を得て登山人生最後のチャンスでもあった来年のヒマラヤ遠征も参加出来なくなり高嶺の夢は遙か彼方に消え去った。私の登山人生もどうやらこの辺りが引退する潮時なんだろうと考える事が多くなった。 

さて、そうなると何か自分自身に納得がいくベストな終止符の打ち方とは何だろう? 山の終活を始めようか。

高校2年生(17歳)の夏から一緒に登山を始め50年を超える付き合いのトっちゃんに相談してみた。 

「今まで登って来た山々へ挨拶しに行ったらエエやんか、まずは剣岳やなァ、俺が付き合ったる」

P8040036
こうして「さよなら行脚登山」の第一章である剣岳計画が始まった。

入山を8月初旬とし、仕事の合間を縫って歩荷、クライミングとトレーニングを続けた。体調も良く、あの5月以来発作も起こらず心臓君は元気?に働いているようだ。

「よっしゃ!これなら行ける!」

そして計画とは、

(1日目) 

室堂~剣御前~剣沢

(2日目) 

剣沢~長次郎谷~6峰Cフェース剣稜会ルート~八ツ峰上半部縦走

(3日目) 

八ツ峰上部~池ノ谷乗越~北方稜線~剣岳山頂~別山尾根下降~平蔵ノコル

(4日目) 

平蔵のコル~室堂

としたのです。

ロープはシングル50m、クイックドローは各自4、スリングはカラビナをセットし多めに持参、捨てカラビナも数枚を用意した。今山行ではテントは持参せずツエルトを使用する。超軽量の2人用を今回に合わせて購入したのですが少し狭いので重たいが長年に亘り愛用してきた相棒のような古いツエルトを使います。全てを背負っての行動ですから少しでも重量を軽減したいのですが、日程との関係で食料は増えるし、夏場でもあり多くの水も必要となります。ザックの総重量は16kgを越えていました。これも想定内です。

Photo     (北鎌尾根で使用した時の画像です。風雨に耐えました。)

今回もフライはトっちゃん特製の厚手のゴミ袋フライです。これは北鎌尾根でも威力を発揮した優れ物です。

8月4日、同じ日に本峰南壁A2登攀に向うケンちゃん、ナオミちゃんに出会いましたがお若い二人には雷鳥坂で軽く抜き去られてしまいました。

P8050040
8月5日AM03:00剣沢をスタートする。長次郎の登りでは激しい動悸と息切れで何度も立ち止まってしまう。

「心臓がパンクしそうや!こんな苦しいのは初めてですわ!病気の後遺症かなぁ~」

本当に苦しかった。思わずザックのポケットに入れたニトロに手が伸びそうでしたね。

大半が雪に埋もれた熊の岩には3張りのテントが見えます。八ツ峰6峰が眼前に近づいた。ガレ場は完全に雪に隠れています。剣沢の富山県警山岳警備隊で得た情報通り6峰岩壁取り付き部は大きくシュルンドが口を開けていました。

P8050045

スタートはまるで井戸の底から登り出す感じです。滴り落ちる冷たい融水と冷気で寒くて堪りません。このCフェース登攀で最大の難関はシュルンドからの抜け出しでした。とにかく狭くて大きなザックを背負っての通過には一苦労です。下手に滑り落ちれば隙間にガッチリと挟まってしまい脱出不能となります。

Photo_2
(これは2013年本峰南壁A2を登攀した時のシュルンド状況です。キノコを切って下降しました)

本当に良く似た状況ですが、今回の方が苦労しましたね。

101_1371
Cフェースは別段取り立てて言うほどの難しいルートではありません。但し、今回はズッシリと肩に食い込む重いザックを背に登るので、一歩上がるのにヨイショ、ヨイショと思わず掛け声が口を突きます。

「ザックで振られるし、ロープも重いから短くピッチを切るわな」

P8050047
Cフェース名物のレイバックリッヂに向ってロープを伸ばすトっちゃんです。

誰も居ないCフェース、快適な登攀が続きます。ザックの重さも忘れて楽しんでしまったオジン二人。

P8050050
Cフェースの登攀を終え八ツ峰上半部の縦走になりました。問題は各自2リットル背負っていた水が底を突きそうな事です。池ノ谷乗越まで行けば残雪で水は確保出来ます。ぼちぼち今日の疲れが出てきました。残雪を求めて8峰への稜線を外れ7峰を懸垂下降し三ノ窓側を巻くルートに下りた。今年は三ノ窓側のガリーに残雪は必ず残っていると2人とも妙に共通した確信があったのです。
P8060051
「ホラ!雪が残ってるわ、思った通りやで!」

やはり狙い通り雪は残っておりました。

「かなり汚れた雪やけど飲めるかなぁ~?」

「大丈夫やて、高ちゃんに言われるぞ、ゴミは歯で濾して飲め、濁りは胃袋で濾せとね」

台湾の雪山南壁で飲んだ溜り水、泥水やインダス源流の氷河で飲んだ灰色に濁った水に比べたら綺麗なもんです、そう思いましょう。

「俺なんか泥水を啜るような暮らしやから平気やわい!」

奥にチンネの左稜線が見えています。

トっちゃんが言う、

「左稜線は長かったなぁ~、あの帰りには完全にバテたもんなぁ」

トラウマになる程、扱かれたようだ。

時間的には余裕はありましたが残雪も見つけた事だし少し早いが行動を切りました。上部から落石の来ない場所を選んで腰を下ろしました。足元は三ノ窓雪渓まで切れ落ちているし二人並んで横になって寝る幅もありません、座っているだけです。夜半から激しい雨に見舞われたがツエルトと特製フライを被り、何度もズリ落ちそうになりながら一晩耐えました。

「こんな事して楽しいか?どうよビバーク魔の高ちゃん」

P8060052

明け方に雨は小康状態となった。大急ぎで装備を整えと云っても靴もギヤーもヘルメットも装着したままですからビスケット類を泥水と一緒に胃袋に流し込み、これで朝食は終わり、速やかにBPをスタートします。寝不足の身体に気合いを入れて、

「さぁ、今日も一日頑張りましょう!行くでぇ~」

101_1374
クレオパトラニードルをバックに三ノ窓の頭を巻くように左上方へ3ピッチで八ツ峰の頭に抜けた。幻想的なムードを漂わせる八ツ峰上部でした。


P8060053
越えてきた八ツ峰上部です。濃いガスが早朝から山肌を這い上がってくる。

どうやら台風5号が怪しげな動きをしているようです。

今日も一日中悪天候の中での行動となりそうだ。

P8060054

八ツ峰の頭からの池ノ谷ガリーに懸垂下降です。池ノ谷乗越まで昨日中には登る予定だったのです。

行程が半日程遅れています。

「天気も悪いし、この歳やから、まぁ良しとしましょうや!」

P8060056
小雨とガスの中、北方稜線を辿ります。予想していたよりルートは荒れています。ガレとガサガサの浮石だらけ、長次郎ノ頭も巻き道は崩れていて通行不能。稜線に上がり頭からコルへ懸垂下降するルートを選択します。支点の角度が悪いのでスリングを追加セットしボナッティーのビナを記念?に残しました。北方稜線ではここまでに2ヶ所ロープを出しました。雨中で滑る岩と重荷でバランスを崩しそうになりますから安全第一、面倒でもスタカットで悪場は通過しました。
P8060057
剣岳頂上部は全く見えません。雨に打たれながら剣本峰の急峻な岩場を只管に登ります。

「トっちゃん、高度計を見てくれるか?」

「今は2960mを表示してるで」

傾斜が落ち少し進むとガスの中からヒョッコリと山頂の祠が姿を現した。登山者の姿は全くありません。風はピタリと止まり妙に静まりかえった剣岳山頂。爺さん二人だけの2999m。

「トっちゃん、付き合ってくれて有難う!友情に感謝してます」

雨に濡れた私の顔は泣き笑いしているように見えたでしょうね。

P8060058_2
再び強さを増した風雨の中、剣岳山頂に別れを告げます。顧みれば20代から四季を問わず幾度も訪れた剣岳山頂(2999m)です。感慨を込めてもう二度と訪れる事は無いであろう山頂の三等三角点にそっと手を当てた。

「剣岳さん、長い間、楽しませて頂き、また鍛えてもらい感謝しております。私は山の世界から引退していきますが、これからはどうか私の後輩達を宜しくお導き下さいますようお願い致します。本当に、本当に有難うございました」

少し下った所で今一度、山頂部を振り返った。

真っ白なガスのカーテンにその姿は覆われ何も見えなくなっていました。

(後記)

神戸を出る時、台風5号は九州南部方向へ向かっていた。北陸方面が進路予報円に入ってくるのはまだ先だと読んだのですが、甘かったです。下山(8月7日)は大荒れ、雷鳥沢から室堂ターミナル間は凄い嵐でした。下山して神戸に帰るにも苦労しました。北陸自動車道は武生から名神方面が通行止め、8号線も駄目、舞鶴若狭道も敦賀から通行止めです。仕方なく27号線をトコトコと走り、舞鶴赤レンガ館で「海軍カレー」を喰って、ヤットコサ神戸に帰る事ができました。帰った日は登山研修所でクライミング講習会があります。帰宅し本業の仕事を済ませて参加しましたが正直なところ疲れ果てており、欠席したかったのが本音です。

もう一つ、

今回の山行用にファイブテンのイグサムガイドを購入しました。これが素晴らしいグリップ力を発揮しました。流石にステルスC4ラバーの威力は凄い、濡れた岩をものともしないのです。しかし、北方稜線の鋭いガレガレでサイドのゴムカバー部分が両足とも無残に切り裂かれておりました。雨具は穴だらけ、エアーマットもパンクです。トホホ…

« 懐かしい友と再会する | トップページ | 前田芳之君を偲ぶ »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1773294/71373547

この記事へのトラックバック一覧です: 古希コンビで挑んだ最後の剣岳(2017夏):

« 懐かしい友と再会する | トップページ | 前田芳之君を偲ぶ »

フォト

ブログリンク

  • クラブ雲峰ホームページ
    神戸を拠点として活動する創立50年を超えるクラブ雲峰のホームページです。
  • 遠征プロジェクト
    海外遠征を目指し頑張っているナベちゃんの活動が掲載されています。
  • 雲峰イズム
    クラブ雲峰の未来を担う現役組が運営するブログの開設です。ぜひ一読下さいね。
  • 会員掲示板
    クラブ雲峰の会員用掲示版です。 山行計画、連絡事項、ご意見、ボヤキを自由に 書き込んで下さい。
  • クラブ雲峰
    2007年にブログを開設して2012年までの記事を掲載しております。
無料ブログはココログ
2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

最近のトラックバック